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【Seihcra】オーバーコート専業ブランドが作るフィールドコート”Albans”

昨年末に御紹介しましたSeihcra(シクラ)よりニューモデルが届きました

Albans(オールバンズ)
そう名付けられたフィールドジャケットです
タウンウェアがSeihcraラインナップの一つの共通要素になっていることからモデル名も、それに因んでデザイナーの里和さんがイギリス在住時に自転車でよく訪れていた地名から命名されたそう
実は昨年末にオーダーする際に提供頂いたラインシートにはモデル名の表記が無かったので販売側としては、あればありがたいとサラッと伝えたら付けてくれました

で、こちらのモデル、肝心のデザインはやはりイギリスの背景に持つカントリーウェアブランド、Barbour(バブアー)のSOLWAY ZIPPER(ソルウェイジッパー)がベースになっています
1894年創業のイギリス老舗、あらゆるブランドがデザインをリファレンスし続けている、国民的ブランドの一つです
中でも以下のモデルが、その代表格です
BEDALE
BEAUFORT
INTERNATIONAL

Seihcraで里和さんがピックアップしたのが、どちらかと言うとマイノリティ寄りのモデルなのが面白いですね
私自身は所有したことがなく、過去幾つかのショップで見かけて、こんなモデルもあるのか、ぐらいの認識でした

せっかくなので、すこし深くSOLWAY ZIPPERを紐解いてみようと思います
背景を知って、このモデルを多面的に知った方が、里和さんの拘りたいポイントも見えてくると思います

〜SOLWAY ZIPPER〜
誕生は1960年代、バブアーが、未だタウンウェアよりも実用着(ワークウェア)やレーサー向けのライダースジャケットを製作していた時代に生まれたモデルで、のちにリリースされるビデイルの原型となったモデルです

このソルウェイジッパーは、以前の労働者向けのターゲットから本格的にタウンウェアとしてターゲットを変更するキッカケとなったモデルで、発売当初にあったワークウェアの象徴的なディテールのウエストベルトは1980年代以降、街着としての必要性は無くなったことで廃されていきました
更にカントリースポーツ(乗馬、ハンティング、フィッシングなど)で着用されることが増えたことで着丈も動き易くするために少しコンパクトに変化をとげていきました
その後、国技で正式に使用されるユニフォームになったことでバブアー初のロイヤルワラントを獲得するまでに評価されるモデルとなりました
ちなみにその後、3つ全てのロイヤルワラントを獲得することになるのですが、イギリスブランドとしては僅か5ブランドのみと言う所からもバブアーのブランドとしての高い信用と、その最初のキッカケとなったSOLWAY ZIPPERが如何に重要なモデルとなったかが分かると思います

ちなみに1960年代モデルの特徴は、1990年代以降のモデルと比較しても少し長い着丈とウエストベルト、そして、ややAラインのシルエットですが、本モデルのAlbans(オールバンズ)は、その1960年代のSOLWAY ZIPPERをデザインのベースにしています

ココからは本モデルのAlbans(オールバンズ)の特徴や採用された生地について、お伝えしたいと思います

(デザイン、パターンメイクと、、)
まず、デザインは先のSOLWAY ZIPPERの説明でも触れていますが、1960年代のモデルをベースしています
パターンについての前にディテールをブラッシュアップさせています
例えばフロントボタンのフラップをスナップボタンから水牛ボタンへ、オリジナルのSOLWAY ZIPPERにある左胸のポケットや左右のフロントポケットは少し下へずらして配置されています





重心が少し下に位置することで、胸から腰までの身頃に余白が生まれて、美しい襟の形状をより際立たせる効果や比較的大きめに設計されたポケットの印象を薄めてカジュアルに見えてしまうディテールを消すことなくスマートな印象へアップデートさせています
背面の腰位置には左右ともにアジャスターを配して、1段階絞ることでボックス調のシルエットからテーラードジャケットのような腰の絞りを生み出し、クラシックスタイルにも適するバランスとシルエットを生み出せるようなアイデアを盛り込んでいます

各所に使用されている水牛ボタンはイギリスから加工前の素の状態を取り寄せ、里和さん自身がオイルを入れ、自身の手で磨き込んで仕上げています、既成の水牛はテカリが強いものが多く、シクラには不向きとの理由)
キャメルカラーの生地にトーンが馴染んでモダンな印象です、この手間が全体から醸し出させるオーラのようなものへと波及していくのが既存の水牛ボタンと比較すると良く理解できます

全体のデザインとディテールはほぼ踏襲し現行モデルに比べて、やや長めの着丈も採用されています
細かなディテールは、後ほど触れるとし、先に触れておきたいのが最も重要なポイントとなる、アウトラインやシルエット

不思議なのが物撮りだと、実際よりもコンパクトな印象を与えるデザインなのですが、着用するとハーフコートに近いバランスの着丈なのが分かります
そして、この着丈が何処となくエレガントな印象を持つ大事な要素になっていることも分かってきます


デザインは見慣れた後継モデルのビデイルの印象に引っ張られがちで一見、カジュアルな雰囲気を感じるのですが膝に近づけた着丈と、里和仕事(マジック)と呼びたくなるショルダーからスリーブに掛けてのアウトラインと美しいアールを描く襟の形状
名門テーラーで経験し、自身のビスポークテーラー、ARCHEISで幾多の顧客のオーダーに向き合った経験が生かされているパターンメイク


SOLWAY ZIPPERのオーバー気味のAラインシルエットは、そのゆとりの余白と襟の抜けが優雅な印象を与えてくれるのですが里和さんの考える美しさは、それとは違いテーラードジャケットのようにしっかり襟に沿っていて、日本人に多い怒り肩体型の方が袖を通しても袖口も外へ跳ねないこと(広がらない)

ラグラン袖の前半分は袖山を高く、後ろは極端に袖山の低い袖という前後キャラクターの違う袖にする事により、前袖の収まりと腕の前に出やすさを実現させています

本来ラグランスリーブでは起こり得ない里和マジックのパターンメイクです

分量多めのAラインコートにありがちな前丈が後に引っ張られることで発生する襟の抜けと袖の持ち上がりによる肩周りが後へ引っ張られる、あの着心地の悪さは見た目のエレガントさとトレードオフとして受け入れていたことですが、こちらは優雅さを失うことなく、吸い付くように首に乗る襟と、身頃やスリーブが後へ引っ張られないことで、ショルダー部分が重力通りにフラットに面で乗るので、着心地が軽く、長時間着用したり、前ボタンを外していても綺麗なアウトラインを崩さずに着用し続けられるようになっています

それと背面部分の要素として背中心は縫い目を作らないホールバック仕様で背中心が固くならず生地のドレープ感をより楽しめるデザインとなっていて、加えて裏無しの単衣仕立てなので背中心の縫い合わせがないことで完全にフラットな一枚の生地が背中に設置することで縫いあわせの凹凸によって、ゴロつきを感じることなく、何より軽い、本当にストレスフリーな着心地になっています

これは着用しないと中々、伝わらない部分ですが、少しは着用画像で伝われば嬉しいです

あと忘れてはならないのが縫製、これが全てを決定付けます
パターンが良くとも、縫製が良くなければ当然、良い服は生まれません
そのパターンを適切に解釈し、更に最適な副資材を有しており、その扱いが適切でないといけません

このシクラのコートたちの縫製含む生産は、ふらしの毛芯が使える日本国内有数の腕利き職人を携えたMTM(Made to Measure)工場で生産されてるのですが、本モデルのフィールドコートのみ他のコートと少しデザインの趣が異なるため、里和さんが信頼をおく腕の立つ職人のカジュアル工場で縫われています
もちろん、MTM工場と同じく接着芯ではなくふらし芯を使用しています

良い材料があっても、調理する料理人の腕が見合っていなければ、美味しい料理は生まれないのと同じ

ただ、もう一つ、確かな腕を持った職人でも、正しく指示(コミュニケーション)が取れなければ、良い服は仕上がりません
ココに於いては私も10年以上、同じくオーダーメイド専業の工場さんとお付き合いさせて頂いているので身に沁みて分かります

オーダーメイド工場の職人さんは、本当に素晴らしい技術と経験をお持ちですが、高齢の方も多く、しっかりコミュニケーションしないと、アレっと思うものが上がってしまうことも多々あります、
教えると言うよりは、オーダーを入れる側が工場や職人さんの得意不得意(ざっくり言うと人間性も含めて)を理解して気持ちよく仕事を依頼しないといけないコミュニケーション能力も必要なのです
ココ数年はカジュアルなアイテムも縫うことが増えているようですが、やはりキッチリ、カッチリの洋服を作り続けてきた方々なので、柔らかくとか、ニュアンスで作ることが、大得意ではない方もいらっしゃるので分かるように言語化し信頼はしながらも縫い上がるまで、お付き合いをしないといけない業界ですね

(生地〜山栄毛織謹製オリジナルツイル)
もう一つ、大事な要素があります
生地です、
全く、当たり前のことですが生地が無ければパターン(型紙)があっても洋服は作れませんから

本モデルに採用された生地を織っているのは、何と偶然にも山栄毛織さん

15周年で当店のオリジナル生地を織ってくださった愛知県津島市にある独自開発したレピア織機、希少なションヘル織機を複数所有する、今では非常に希少となった生地の企画から製造、販売まで一気通貫で生地作りを担っている機屋さんです
110年以上の歴史を持っていて国内メーカーだけでなく、海外のラグジュアリーメーカーの生産も担っている日本が誇る工場さんです
梳毛から紡毛、デニムも織る振り幅の広さと何と言っても社長の山田さんのチャレンジ精神によって、新しい生地開発に対して貪欲に対応してくださるところが日本海外と評価が高い理由だと思います
(生地作り初心者の私にも丁寧にアドバイスを下さりながら、生産することが出来ましたし、、)

なんせ百戦錬磨の工場さんなので、里和さんの開発したい50年代〜60年代の特徴を活かした生地作りにも、その評価に違わぬ、素晴らしい生地が生まれました

本素材は、コットン49%・ベビーキャメル39%・カシミヤ12%による混紡設計
経糸にはコットン80%・カシミヤ20%の混紡糸を使用し緯糸にはベビーキャメル100%を採用しています
(じっくり生地を見ると綾目で経糸緯糸に使われている糸が見えてきます)

組織は経糸が緯糸に対して3:1の比率で表出するツイル組織
これによりベースはコットン主体の安定感を保ちながら緯糸に用いたベビーキャメルの繊維がコットンの隙間からうっすらと浮かび上がる設計となっています
これが結果として従来のコットンツイルに見られる均質でフラットな表情とは異なって僅かに毛羽立ちを帯びた有機的な奥行きのある表面感を形成しているんです
肌離れの良さにも好影響を与えています、半袖で直に触れてみると、すごくドライな感触がするんです
生地の見え方がやや肉厚で重厚なように見えるのですが実際はライトで柔らかい生地のタッチになっています

またコットンツイル特有の過度な光沢感を抑制し、あくまで“獣毛のような質感を持つコットン”というコンセプトのもと、ナチュラルで落ち着いた風合いへと昇華されています
繊維同士のコントラストが生み出す微細な陰影が素材に静かな存在感を与えていて、
二度生地を作って頂いた際の糸から生機になり、仕上げの加工を経て織り上がった山栄謹製の生地を知っている自分としては、これは山栄さんだからこそ、織り上げられた生地だなと強く実感しました

加えて機能面においては緯糸にベビーキャメル100%を用いることで縦方向のシワが入りにくく日常使用における扱いやすさを確保しています
一方で経糸はコットン主体であるため肘などに生じる横方向のシワは適度に入り着用とともに自然なエイジングが進行する設計となっています

さらにベビーキャメル特有の中空構造により軽やかでありながらもわずかな保温性を備えコットン100%素材にはない膨らみと柔らかさを付加
結果として、こちらシーズンを跨いで着用可能な実用性と表情を兼ね備えたファブリックに仕上がっているんです
画像だけ見ると、半数以上の方が秋物?って感じると思いますが、着てみると変わります、そのイメージが!

これも着てみると毛羽の獣毛感を肌に感じながらもキャメルとカシミヤが利いた綾織独自の生地のしなりのような弾力と同時にしっかり皺が入るようなぐしゃっと潰れるような感じ
相反する感触が同時に存在していることが感じられます
本当に、これコットンなの?って思う何とも見た目に反した、これまで味わったことのない感触です

一体、どんなやりとりののちに、この生地が生まれたのか、ホントに知りたい
素晴らしい生地です
手掛けた生地の機屋さんへの信頼の証としてサヴィルローでは当然のテーラーマナーとして機屋を示す織りネームが縫い付けられています
(日本のメーカーは大方、背景を隠しがちな慣習です)

職人さんや工場さんの技術や経験と、里和さんの真似できない稀有な経験に裏打ちされたパターンメイク、そこに110年の歴史と、その先を見据えた革新性を携えた生地がマリアージュした時に、このSeihcraのアイテムのような魔法を纏った洋服が生まれるんですね

見た目は、それっぽく見せられても着ると圧倒的な違いは、秒で分かります

このAlbans(オールバンズ)が持っている懐の深い、凡庸にならないコーディネートが楽しめるモデルです
綺麗に見せたい時は物撮りにプレスを当てたもの、仕立てのラフさを誤魔化したい時には着用画像に皺が入ったものという感じで採用されることが多いと思いますが、全く逆のパターンで撮影してみました

物撮りは少し洗った感じの雰囲気を見せたいと思ったので、皺を乗せた表情のものを採用しています
着用画像は、しっかりプレスを当てたシャープさと仕立ての良さを感じる表情に仕上げたものを採用しています(襟の美しさ、肩周りのライン、見て下さい、縫製職人さんの腕の良さが溢れんばかりに感じ取れると思います、どうぞ、ご覧あれ!)

物撮りと着用画像の対比を御覧ください


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