オーバーコート専業ブランド”Seihcra(シクラ)”

去る12月初旬、東京でのオーダーフェアの合間を縫ってアトリエにお邪魔して入荷は同月下旬、そして翌月の1月にリリースと、超速スピード感でお取引がスタートしたこちら”Seihcra(シクラ)”
キャリアの重要な出自である英国の匂い漂うアトリエにはテーラーらしい品々が所狭しと並んでいる







窓際に整然と重ね掛けられた生地耳は、これまで手掛けてきたビスポークアイテムに使用してきた生地の端切れ
カットして残った残布は後々使用する為にを丸めて残しておくそうなのだが、丸めた生地を括る紐がわりに使用する為、残しているらしい
イギリスのテーラーでは当たり前に行われているある種の風習のようなもので、大切な生地を可能な限り使い尽くしてゴミを出さない考えが通底しているそう

スポット的なアイテムを除いては、これまでで最速の新規取り扱いのスピードかも知れない
全てのブランドやアイテムに於いて熟考の末に取り扱いのジャッジをする訳ではないが、その場のノリ、テンション、いや、それよりも深い部分の感情、そうパッションがそうさせたと思う
コロナ以降、スタッフに買い付けは委譲していたので、久しぶりのバイヤー仕事
我ながら素晴らしく良い出会いだと自負した2025年の年の瀬でした


このSeihcra(シクラ)というブランドにはオーバーコートのカテゴリーに属するアイテムのみを展開すると言う大義名分がある
その所以はデザイナー里和氏自身が聖域と称するビスポークテーラー、ARCHIES bespoke(アーチーズビスポーク)にあるので、先ずは里和さんの経歴から触れておこうと思う
里和慶一(さとわ・けいいち)
1987年、東京生まれ。日本における最高峰の注文服店のひとつ銀座英國屋にてキャリアをスタート。
テーラー(縫製)とカッター(パターン・裁断)の両分野で本格的な修行を積み、7年半にわたり在籍する中でビスポークの基礎から実践までを体系的に身につける。
その後、本場の技術と文化を求めて渡英。ロンドンにて4年間テーラーとして活動し、うち約3年弱はサヴィル・ロウの名門「H.ハンツマン・アンド・サンズ」に在籍。同店では英国王室関連のロイヤルウェディングや、映画・舞台衣装の製作にも携わり、クラシックな英国仕立ての中でも特に構築的で格式高いスタイルを実地で学ぶ。
顧客対応からフィッティング、仕立てまでを一貫して経験し、国際的な環境の中で審美眼と技術を磨いた。
帰国後、2021年に独立。東京にてビスポーク専門店「ARCHIES bespoke(アーチーズ ビスポーク)」を開業。英国仕立てを基盤としながら、日本人の体型や生活様式に寄り添った端正かつ実用性の高いテーラリングを提案している。
2025年10月には、ビスポークで培ったパターンメイキングと素材選定の知見を活かし、既製服のコートブランド「シクラ(Seihcra)」を始動。
冒頭に書いたように先月12月に伺ったアトリエでも直接、その経緯を聞いた
この経歴を見て感の良い方なら、分かるかも知れない
里和さんの聖域、ビスポークは、その名の通り、一人の顧客に対して、洋服を仕立てる
その顧客が最も輝くスタイルをBE -SPOKE(話し合い)ながら、作り上げる
主役は顧客であり、正解かそうでないかは顧客が握っている、そこには里和さんのエゴは宿らない
このエゴ(自我)の追求に目覚めたのが、旧友の舟山瑛美さんがデザイナーを務めるfeticoの東京でのランウェイショーを見た時だとのこと
feticoのエゴ剥き出しのデザインに歓喜する観客たちを見て、心揺さぶられ、
自身も、エゴを率直に込めた洋服を作りたいと言う、ある種の悔しさにも似た感情が湧いたと言う
一対一のBESPOKEと違い、既製品(プレタポルテ)なら多くの人に届けることができ、同じ喜びを沢山の人が味わうことが出来るのではないか、、
それであれば自身がユーザーとして購入するものを作ろうと思い立つ
普段から自身で買うアイテムと言えばニット、靴、コートぐらいで、他は自身で作ってしまう
となれば専門外のニット、靴ではない、コートになったと言う訳である
(因みにデニムパンツも一部の顧客向けにオーダー対応されているそう)
アトリエに伺う前は、勿論現物を見ていないし、画像などの情報もない
故に、私の脳裏に浮かぶのは英国仕込みのテーラーが作るコートと言う先入観
当店のサロンカテゴリーに属するドレス、クラシック、アルチザンなどのアイテムとの相性は良いだろうと、ただカジュアルセクションのアイテムとの親和性はどうだろう?と言うのが正直な気持ちだったが、アトリエのラックにハンギングで掛かったコートを見て、また実際に袖を通して、無用な心配だったと瞬時に悟ることになりました
ブランドスタートのタイミングが少し変わった12月と言うシーズン終盤ではあるが一応ファーストシーズンにあたる今回、リリースされるのは全部で三型、バルマカーンコート、アルスターコート、フィールドコート
全てに袖を通し、手に持った重量感が袖を通して肩に乗る(と言うか入ると言う表現の方が正しいように思う)瞬間に、その重量はフッと消えてしまう、仕立ての良いオーダーメイドのテーラードジャケットに袖を通して着込んだ時に感じる感覚、まさにソレ
出自が完璧に活かされた既製服の概念を完全に覆す着心地


もちろん、着心地は、美しいパターンメイクと縫製によって生み出されるものですから、姿見を通して映る自身の姿は我ながら、納得のスタイルの良さである
自惚れ感ダダ漏れではあるが姿見に映る袖を通した自身の姿は、先入観にあったイギリス的な構築的ショルダーラインに象徴されるコンケープされた肩山ではなく、ナチュラルに袖口へと伸びる美しい曲線とフロントの前端(打合い部分)と身頃のアウトラインが真っ直ぐ直線に伸びるスマートなラインがなんとも印象深く、感動の声を何度も出してしまうほどだった



一体、どんなテクニックを用いて、既製服にも関わらずオーダーメイドさながらのフィット感や美しいアウトラインを生み出しているのか?
姿見の前で感嘆の声を出す私に、ゆっくりと丁寧に説明をしてくれた
「世に存在するコートに多く見られる、特に昨今のオーバーサイズなシルエットにも言える事として、撫で肩設計のラグラン袖が多いと言う事があります。
その方が身幅にゆとりを持たせたAラインシルエットを生みやすく、また一見ラクに着用出来るようなリラックスな着用感を感じ易くもあります。
パターン構造上そうした設計になりやすいですし、Aラインに広がるハンガー面のバランスも、いまの気分には合っているのでしょう。
ただ、これまで多くの方にフィッティングを重ねてきた経験からすると実際にはなで肩の人はそれほど多くありません。
怒り肩の体型の方がそのような設計の服を着ると前を留めた際に首元が後ろへ引かれ着用感に違和感が出てしまいます。
そうした不快感を覚える方は少なくないはずです。そこで今回は、あえていかり肩寄りのバランスでラグランスリーブを設計しました。
もう一点、一枚袖ならではの落ち方で気になっていたのが、腕を下ろした際に袖が横方向へ広がってしまうことです。それを抑えるため、袖の前側は袖山を高めに、後ろ側は低く設定し、自然に腕に沿う立体感を持たせています。」





完全に腹落ち、自店舗でもオーダーメイドカテゴリーを有しているので、採寸は数百人、行ってきた経験からしても、確かに撫で肩の方に出会うことは殆どないし、どちらかと言うと若い方ほど怒り肩寄りの印象が強い(贅肉が付きにくい世代というのもあって骨格が体の線に直で現れやすい)
そして怒り肩に起こりがちなのが襟の抜け、そして袖口が外へ跳ねてしまう現象
必ずと言って良いほど補正が必要になる(自身の経験で言うなら、デフォルトで怒り肩補正を入れておくこともあるぐらいだ)
実は私の買い付けで重要視するポイントの一つはジャケットやコートで襟が抜けないパターンになっているかどうか


着用画像を見て欲しい、フロントの前端通しがラペルから裾口まで真っ直ぐに延びている、同じく左右のアウトラインもAラインを描く事なく、脇の身幅から裾口の蹴回し寸法と殆ど差異がないような直線のラインを作っている
着用画像のコートは、ダブル合わせ、にも関わらず前端の位置は、まるでシングルコートのような場所に収まっている
襟の辺りにも目に向けて欲しい、着用モデルの首に吸い付くような襟の形状、前途した通りまるでオーダーメイド仕事のように精密且つ美しい仕立てになっている






里和さんの説明の通り、実際に着用した時の心地よさと姿見に映る自身の立ち姿に高揚したのは、正にその点が見事にクリアしていたから
もちろん容易に出来ることではない、長年の十人十色の体型に向き合ってきた里和さんだからこその気付きとアイデア、それを具現化することが出来る工場があってこそ
実はSeihcraの洋服は国内のオーダーメイド専門のコート専業工場で製作されている
量産(既製服)でありながらも、作りは百戦錬磨のオーダーメイドコート製作に長けたファクトリーだからこそ、実現できたという事
更に、もう一つ外せない要素として、使用されてる生地
今回、展開されるモデルに使用されている生地は以下のバリエーションで構成されている
・里和さん発案のオリジナル生地三種
・メーカーの自社企画生地三種



オリジナルに関しては愛知県尾州の山栄毛織、弊社の15周年で製作を依頼した山栄さんがコチラでも辣腕を振るっておられる
新旧、そして独自の改良を加えた織機を備えた工場で生み出された三種のツイードは、それぞれ違った顔を持ち、いずれもクラシックながらもモダンな顔付きが独特のオーラと雄弁さを兼ねた唯一無二な生地である
(当店のチョイスしたモデルには、特に素晴らしいと感じた7色の糸を用いたダイヤ柄の生地をセレクトしました)
片やメーカー企画の生地は尾州の葛利毛織とイギリスの生地メーカー LOVAT(ラバット)の生地を用いている
当店のセレクトしたモデルには採用していないが、いずれも自社の特性がしっかり盛り込まれた生地がラインナップされている
着用画像に使用しているのが当店がセレクトしたコートだが、採用した生地は里和さんが山栄毛織さんに依頼して製作したオリジナルのツイード生地
上記の通り7色の色を用いて複雑な色合わせをダークブラウンベースに落とし込んでいるが、遠目には柄が目立たないように表面に少しの毛羽で留めておくことで、光の当たり方によって隠れていたダイヤ柄が奥から浮かび上がってくる、そこに7色の色がチラチラと輝いて見える
目はしっかり詰まっていながらも軽量、何とも不思議な生地である
個人的には山栄さんと言えばクラシックやモード寄りの梳毛生地を織るイメージがあったが、この複雑怪奇な獣毛ツイードの柄物生地に流石200年以上の歴史を感じさせる圧巻の仕事






当たり前だが、このマリアージュがあってこそ、そしていずれの要素も独自性を持っているからこそ、それらが掛け合わされた時に想像を遥かに超える洋服となって生み出されたと、実際の現物を見て触れて着用した時に誰もが感じると思う

因みに採用されているボタン、画像だと上手く伝わらないのだが、このボタンは水牛ボタンだが、里和さん自身が加工前(磨き工程)の状態を自身で仕入れて、その磨きの工程をご自身で行なっている
通常は画像の通りツルツルと表面に凸凹がないものが流通しているのだが、里和さん的には、艶があり過ぎるとの事で自身で納得出来る状態にする為に手間を掛けて磨いているそう
私自身長年、この業界に身を置いて実際にボタン屋さんとの取引もあるが、自ら磨いて仕上げていると言うのは初めて聞いた
既製のボタンに刻印を入れるなどは当たり前レベルで聞いてきたが、イギリス製のオイルフィニッシュする前の状態で仕入、自身でオイルを入れると言うのは聞いたことがなく、細部まで拘る深度が違うなと、、
ただ画像にはないが見比べると確かに違う、既製のものはもう少し艶があるか、またはもっとマットな仕上げかのどちらかで、里和さんの磨いたボタンは丁度、その真ん中、これ以上ない絶妙な塩梅、この細部と言うか深部の拘りが全体に貫かれている、感服です
で前置きが殆ど本題になってしまったが、VELISTAが今回、買い付けたコートは三型の一つ、アルスターコートをベースにした一枚袖のオーバーコート
上記の特徴が最も雄弁に表れているのが本モデルだと思い、買い付けた(もう一つはフィールドコート、これは3月に納品予定)
これが本当に素晴らしいの一言に尽きる圧巻の仕上がりだった





上記で触れた沢山の拘りと独自の要素たちを画像から感じ取ってもらいたい


最後に最も驚いたのが身長155cmの女性スタッフがサイズ40(各プロダクトはいずれも38、40の2サイズ展開)を着用しても肩から裾に掛けて全くの違和感なく着こなせてしまったこと、171cmの私がサイズ40のサンプルを羽織ってもオーバーサイズにはなるが、しっかり納めて着用可能だった
もちろん適正サイズは38







フリーサイズと言う物理的にオーバーサイジングでサイズの幅を拡張するのとは、全く異なる、いずれのサイズを凡ゆる体型の方がどれをチョイスしても、それぞれに異なるフィット感ながらも着こなせてしまう許容範囲の広さと自由さが本モデルには宿っている


室内でルームシューズにコート?と違和感のある状況でも、それなりに納めてくれる

こんな感じのラフな着こなしも





惚けた表情と寝癖頭でも、エレガントな風貌へと持ち上げてくれる






傾斜の効いたビスポークハンガーの掛けヅラ、美しい佇まい


Seihcra
No. SE01004
Cloth WOOL 100%(Original 2Ply Patterned Tweed)
Col. Multi Colour