MORIMOTOの森元さん
当店を御利用頂いている方に於いては、VELISTAのビスポークレザーウェアを手掛けてくれているレザー職人の印象が強いのではないでしょうか?
直接関わらせて頂く私も、その印象が全てでしたが今回リリースされるプロダクトで、それが幾つもある中の一つの側面でしかないのだという事が分かりました。
新たに見えた側面を説明する上で、少し時間を戻して私と森元さんとの出会いから辿ってみたいと思います。
2021年12月27日 13:55 年の瀬の慌ただしさの中、送った一通のインスタグラムのDM。
大阪でbespokeとセレクトを営む私たちVELISTAは、その当時レザーアイテムのオーダーメイド展開を構想していて、たまたまInstagramで目に留まったのが「MORIMOTO」というアカウントでした。
プロフィール欄のBespoke Leather Wearの文字に数点のFeedに並んだレザーウェア。
面識もない、紹介もない。ただ何かを感じて送った、勢い任せの一通のDM。(失礼ながら毎度、そうです)
返信が来たのは同じ日の19時03分。
年の瀬の忙しい時期に、しかも即日、本人からの丁寧な返信。
その速さと言葉の選び方に、なんとなく作り手としての人柄が滲んでいるように感じました。
そこから、やりとりは静かに、でも着実に重なっていきました。
型紙の話、過去チャレンジして見事失敗に終わった初制作のサンプルの話、、
年が明けて2022年2月7日、両国のアトリエを初めて訪ねました。
そこから今までVELISTAにとって森元さんは一貫して”レザービスポークの職人”でした。
一着一着、寸法から仕立てまでを丁寧に積み重ねる、その確かな手仕事に幾度も助けられてきました。
だからこそ今回のHARVEYシリーズで見えた、その顔は少し意外なものでした。
レディメイドライン「MORIMOTO」のデザイナーとして時代もブランドも軽々と横断しながら一着として破綻なく着地させる。
その仕事の仕方には、これまで知っていたビスポーク職人としての森元さんとは、また違う一面がありました。
デザイナー・森元俊宏について

profile
1987年生まれ。文化服装学院で服づくりの基礎を学んだのち、テーラードクロージングの現場へ。伊勢丹新宿店のメイド トゥ メジャー部門では、スーツのフィッターとして経験を積んだ。
2018年、レザーウェアを起点に、自身の名を冠したブランド「MORIMOTO」を始動。オーダーメイドを中心に制作を続けながら、現在は既製品も展開している。
型紙製作、裁断、縫製といった服づくりの主要工程に自ら深く関わり続けているのが、森元さんの仕事の核だ。テーラードクロージングで培った仕立ての考え方と手仕事の要素を抽出し、レザーウェアや布帛のアイテムへ、独自のバランスで落とし込んでいく。



そんな森元さんに、あらためて服づくりに対する思考を聞きました。
26AWシーズンの主役、HARVEYシリーズに込められた思想をVELISTAの視点からお届けしたいと思います。

奇抜な物語も、後付けの理屈もいらない。
森元さんが自らの名をそのままブランドに掲げた理由は、ただひとつ。
「自らが目指すクオリティに、一切の言い訳をしない」
その覚悟だけがMORIMOTOという名前を支えています。
音楽、アート、人がこれまで積み重ねてきた文化と歴史。
それらを深く読み解き、再解釈し、一着のプロダクトへと落とし込んでいく。
もとはレザーから始まったブランドですがが、その視線はひとつの素材、ひとつのカテゴリーに縛られることはありません。
26AWシーズン、全国で実質的にVELISTAのみで展開される今回。その中心にあるのがデザイナーが「今」もっとも強く惹かれているものを凝縮した、HARVEYシリーズ。









完璧な針目より、揺らぐ手の記憶を
テーラードクロージングに宿る、寸分の狂いもない手縫いの美学。
その美しさに敬意を払いながらも、森元さんの視線が向かったのはもっと別の場所でした。
——古いフランスのワークウェアに残る、素朴で生活に寄り添うような手仕事。




擦り切れた場所に布を当て、一針、また一針と直しながら、大切に着継がれてきた服。
そこには、もう誰のものかもわからない**「手の痕跡」と、静かに積み重なった「時間」**だけが残されている。
HARVEYシリーズが目指したのは整いすぎたステッチではない。人の手だからこそ生まれる、わずかな揺らぎとリズム。
完成した瞬間がゴールではなく、着る人が日常の中でこの服に傷をつけ、また誰かの手で直され時間を重ねていくことで、この服はようやく完成に近づいていくと考えています。




「手縫いだから価値がある」わけではありません。この服が纏う空気感と佇まいを成立させるために、たまたま最も自然な手段が“手仕事”だった――ただ、それだけのこと。




時代がずれる、その一瞬の美しさ
既出のHARVEY(ワークシャツ)から派生したHARVEY JKT(ワークジャケット)
シャツとカバーオール、そのあわいに立つ一着。
1920年代のカバーオールを土台にしながら、HARVEYと同じ台襟と前立ての構成を残し、心地よい違和感そのものを愉しむ仕立てに仕上げています。
画家アンリ・マティスがアトリエでラフに羽織っていたコートを思わせる、静けさと品格。作業着でありながら、どこか優美な空気を纏っています。












一見フラットに見えるその表情の裏には、着用したときの佇まいまで計算し尽くした、ごくわずかな傾斜が縫い込まれています。
テーラーとしての眼差しが、さりげなく効いている証拠。
当時のフィッティングをそのままなぞるのではありません。
本来交わるはずのない要素同士を意図的に共存させ、それでも一着として破綻なく美しいラインへとまとめ上げる。それがHARVEYの流儀。
生地について
HARVEYシリーズは、複数の生地バリエーションで展開しています。
まずご紹介したいのが、葛利毛織のDOMINX。個人的にもかなりお気に入りの一枚で、ぜひ一度手にとって見ていただきたい生地です。
素材はウール90%・カシミヤ10%、重さは413g/m。ベースにあるのはテーラードの定番でもある千鳥格子。そこに薄い紫のオーバーペーンをさりげなく重ねることで、遠目には端正な千鳥格子でありながら近づくほどに表情が変わっていく生地に仕上がっています。

カシミヤを10%含むことで、ウール100%の生地とはまた違う、しっとりとした柔らかい風合いも感じられます。
千鳥格子という伝統的な柄に、控えめな色気を一本忍ばせる。そんなバランス感覚が光る一枚です。




続いてご紹介したいのがMouline Wool Broken Twill(ムーラン ウール ブロークンツイル)。素材はウール100%です。
愛知県一宮市で企画・生産された生地でヴィンテージのウールコートを分析し、リプロダクションされたものだそうです。
原料にはオーストラリア産の羊毛を使用し紡績は日本国内で行われ、糸番手は経糸・緯糸ともに1/10+1/48を使用し、35本×34本の打ち込みで織り上げられています。



もっとも特徴的なのは、その色の表情です。撚り杢にすることで単色にはない奥行きのある色合いが生まれ生地表面にも深みのある陰影が浮かび上がります。

そして三種類目が、DORMEUIL TOWNTEX(ドーメル タウンテックス)、ウール100%の生地です。
DORMEUILはフランス発、1842年創業の名門ファブリックハウス。こちらの生地は「Made in England」の文字。ドーメルの代名詞である「アマデウス(AMADEUS)」や「トニック(TONIK)」をはじめとするウール・モヘアなどの主要なスーツ生地は英国ヨークシャー地方などの伝統的な織物工場(ミル)で織られています。英国生地特有のハリ・コシと耐久性、しっかりとした仕立て映えが特徴で本生地も同性質を持った梳毛生地。
しかも、これは80年代後期から90年代にかけて織られた、ヴィンテージのデッドストック。ダークな地色にブルー、グリーン、ゴールドの細い色糸が織り込まれ、遠目には無地に見えるほど落ち着いた表情でありながら近づくと糸の色彩が静かに主張してきます。



実はこの生地のヴァージョンはVELISTAの別注です。
もともとHARVEYシリーズはシャツのみのラインナップでした。丁度この頃、とある生地界隈の筋から、このデッドストックを手に入れており、「ドーメルデッドストック生地を手に入れたんで、それを使って面白いカバーオールにブラッシュアップできそうなので別注で製作可能ですか?」と森元さんに提案したところ、実はご本人もカバーオールの構想を温めていたところだったそうで、話はとんとん拍子に進んでいきました。
まずはVELISTAの別注として、26SSシーズンに先行発売。26AWシーズンからは正式にインラインへ加わり、このドーメルの生地は「VELISTAの生地別注」という扱いになりました。ある意味HARVEY JKTが生まれる、そのきっかけとも言える一枚です。
HARVEYシリーズが大切にしてきた「揺らぎ」は、縫製やシルエットだけでなく、こうした生地選びの段階からすでに始まっています。
生地バリエーション、まとめ
・DOMINX 21870B(葛利毛織/ウール90%・カシミヤ10%/413g/m)千鳥格子×薄紫のオーバーチェック
・Mouline Wool Broken Twill(ウール100%/愛知・一宮産)撚り杢による、奥行きのある色合い
・DORMEUIL TOWNTEX(ウール100%/80年代後期〜90年代のヴィンテージデッドストック/Made in England)VELISTA別注。HARVEY JKT誕生のきっかけとなった一枚
同じHARVEYというシルエットの中でも、選ぶ生地によってまったく違う表情を見せてくれます。
ミシンと針、その間に妥協はない
ミシンで一通り仕上げてから、後付けで手縫いを足す。そんな作り方はしません。
組み立ての工程ひとつひとつに地縫いを施し、そのたびに必要な手仕事――星止め、カンヌキ、まつり縫い――を丁寧に挟み込みながら、一着を仕立てています。


糸選びにも、迷いはなし。
強度を要する地縫いには、ポリエステル糸。
表に立つ星止め・カンヌキには、存在感を放つ絹の穴糸。
裏に隠れるまつり縫いには、より繊細な絹糸。
適材適所、それを高次元で成立させています。

裾はアイロンで強引に折り込むのではなく、まるでスカーフをハンドロールするように指先で優しく巻き込みながらまつり上げます。
量産では決して辿り着けない、不均一の中にこそ宿る美しさ。職人の技が、その時々の思考と研究の跡を、一着の服にそのまま刻み込んでいます。



完成しない服、という結論
森元さん自身、自らの洋服を「完璧な完成形」だと考えたことはないと。
その時々に強く惹かれたテーマと向き合い、試作を重ね、その瞬間もっとも自然だと思えた形をひとつ提示する。
それは服というより、ひとつの研究記録に近いと感じます。
コンセプトを語りすぎることはしない。手にとった人が、感じたままにこの服を日常へと溶け込ませてくれればいい。
そんな静かな願いがMORIMOTOの服には編み込まれています。
今なら、こう言うバランス(着丈、身幅の縦横比、襟型、剣先、カフスなど)とイメージするものとは明らかに異なる構成です。
手縫いが主役でもなく、アイキャッチでもない、でも無くてはならない重要なファクター。
シンプルなのに実験的で、明快に見えて難解。
袖を通し、鏡に移るファーストタッチは若しかすると難解に感じるかも知れません。
逆に常にチャレンジ精神豊かな方には、謎解きのように楽しめるかもしれません。
ご用意した三種の生地のバリエーション。









































三種それぞれの異なる生地の動き、手縫いが描く表情もそれぞれ、そして袖を通した瞬間にふと感じる、「手仕事の輪郭と静かな説得力を」
ぜひ店頭で袖を通して体感してほしいと思います。
MORIMOTO
HARVEY JKT
DOMINX 21870B
葛利毛織/ウール90%・カシミヤ10%/413g/m 千鳥格子×薄紫のオーバーチェック
160,000円+TAX(176,000円)
Mouline Wool Broken Twill
ウール100%/愛知・一宮産 撚り杢による、奥行きのある色合い
150,000円+TAX(165,000円)
DORMEUIL TOWNTEX-deadstock vintage fablics
ウール100%/80年代後期〜90年代のヴィンテージデッドストック/Made in England
VELISTAの別注。HARVEY JKT誕生のきっかけとなった一枚
160,000円+TAX(176,000円)
9月19日 店頭発売
9月24日 オンライン発売